想像の共同体:国民の想像

 基本的には『想像の共同体』*1の第三章「国民意識の起源」のメモです。

定義

 まずアンダーソンは、国民と国民主義を、「自由主義」や「ファシズム」といったイデオロギーの1つとして扱うよりも、「親族」や「宗教」のような文化的人造物として扱うことを提案する。*2この想像の共同体を文化的人造物としてあつかうことのできるようになった(=国民を想像するという可能性が成立しえた)条件については第二章を参照のこと。*3

国民とはイメージとして心に描かれた想像の政治共同体である――そしてそれは、本来的に限定され、かつ主権的なもの[最高の意志決定主体]として創造される *4

実際には、しかし、日々顔つき合わせる原初的な村落より大きいすべての共同体は(そして本当はおそらく、そうした原初的村落ですら)想像されたものである。共同体は、その真偽によってではなく、それが想像されるスタイルによって区別される。*5

 共同体の真偽とは、人々が実際に帰属していると考えているような真実の共同体の存在を仮定したときに、「国民」がそのような共同体と一致しているかという議論のことである。アンダーソンは、そもそも共同体は想像されたものなのだから、その真偽について語るのは無意味であるとして、想像の仕方がどのように共同体のイメージを構成しているかを問題にする。

 

  では国民はどのように想像されたのかというと*、

  1. 国民は限られたものとして想像される
  2. 国民は主権的なものとして想像される
  3. 国民は1つの共同体として想像される

それぞれに、国境、自由の保証、同志愛といったイメージが結びついている。

国民意識の起源

 想像の共同体の可能性が成立したときに、その想像を国民へと結びつけていったものが資本主義であった。

初期の市場

 初期の市場は、広汎に存在しているが層の薄いラテン語読書人たちに限られていた。この市場が飽和するのには150年を要したが、彼らの大部分は二つ目の言語を用いていた世界でも数少ない存在であったために、ひとたび飽和してしまえば、一つの言語だけを話す人々への市場が開かれることになった。つまり俗語化への推進である。 

資本主義は俗語化を三つの外的要素によって加速させた*6
  1. ラテン語の秘儀的性格の変化ーー書かれていること自体から主題・文体へ
  2. 宗教改革における出版利用の成功
  3. 行政俗語の誕生ーー権力の言語へ

 俗語化はラテン語を王座の地位から追放し、キリスト教世界の共同体を腐食していった。しかし俗語化は消極的意義をもつだけのことにすぎず、想像の国民共同体はこれらの要素がすべて欠落していたとしてもなお出現しただろう。

積極的な意味で、この新しい共同体の想像を可能にしたのは、生産システムと生産関係(資本主義)、コミュニケーション技術(印刷・出版)、そして人間の言語的多様性という宿命性のあいだの、なかば偶然の、しかし、爆発的な相互作用であった。*7

 多様性のある口語を少数の出版語に組み立てる

 資本主義と印刷・出版が一言語だけを知る大量の読者公衆を創出して、はじめて相互了解の不可能性が重要性をもつに至った。というのも、この多様性はそれぞれを市場にしようとすればあまりに大きく、市場として開拓するためにはこの細切れの潜在的市場を少数の出版語に集約することで、市場として成立させる必要があった。このとき、口語を出版語に集約することができたのは、音声に対応する記号システムの恣意性のおかげであった。

 

 出版語は、三つのやり方で国民意識の基礎を築いた

  1. ラテン語の下位、口語俗語の上位に、交換とコミュニケーションの統一的な場を創出した
  2. 言語に新しい固定性を付与するーー印刷本の永続性
  3. 旧来の行政俗語とは別種の権力の言語を想像したことーー出版後に「より近い」言語・出版語を持てない言語

1. 多様な口語においては、お互いの理解が困難であったりするが、印刷された言葉によって相互了解が可能になった。その特定の言葉の場には、数百万の人々と、そしてまた数百万の人々だけが、この場に所属するのだと言うことを意識するようになっていった。

 

2. 印刷技術は、印刷本を時間的空間的にも複製可能にしたため、言語の変化の速度が決定的に鈍化していった。

 

3. 出版語に「より近い」方言は、出版語の最終形態を規定し政治文化的名声を得るようになっていった。他方、出版語に同化可能であるが、独自の出版語を持てなかった・普及できなかった言語は、社会的地位を失っていった。

 

この過程は、当初無自覚的に行われたが、ひとたび発見されると公式的なモデルとして利用されるようになっていった。

 

 

 

 

 

*1:ベネディクト・アンダーソン 白石隆・白石さや訳 2007 『定本 想像の共同体――ナショナリズムの起源と流行』書籍工房早山

*2:参考までに社会学事典(弘文堂)では、「国家を構成する個々の成員またはその全体としての基礎集団。法律上の概念(国籍取得が唯一の規定力を持つ)であるとともに、国民主権国民国家のように、主権と機能集団としての国家の基本的性格を規定する政治上の概念でもある。……」

*3:ざっくりいえば、聖典語の特権性・王権の正統性・メシア的時間による世界理解の様式の三つの公理が、人々の精神を支配することができなくなったそのときその場所に、はじめて(*に述べられたスタイルをもつという意味で)想像的な国民が成立しえた。

*4:id,p24

*5:id,p25

*6:15/8/3 した→させた

*7:id,p82